日本古来のクラウドファンディング「頼母子講」とは


千葉商科大学でファイナンスを教える伊藤宏一教授は、クラウドファンディングと日本古来の地域金融システム「頼母子講」(たのもし)には共通点があると分析します。

「そもそも日本語で金融という言葉はお金の融通。融通というのは仏教用語で融通無碍(ゆうずう・むげ)。さしさわりなく通っている、という意味なんです」

頼母子講連名帳

頼母子講連名帳 (日本銀行金融研究所貨幣博物館HPより)

頼母子講、無尽講の発祥は鎌倉時代。10~20人単位の小さなグループが地域でつながり、毎月お金を積み立て「融通」する関係を指しています。お互い顔が分かり、信頼できて、借りたものをしっかり返せる。そんな「たすけあい」の関係が、西日本では「頼母子講」、東日本では「無尽」、沖縄では「模合」(もあい)と呼ばれてきたのだそうです。

なぜいま「クラウド頼母子講」が必要なのか

たしかにクラウドファンディングと頼母子講のシステムは似ています。

しかしなぜ現在クラウドファンディングという形で前近代的な「頼母子講」の仕組みがよみがえっているのでしょう。きっかけは2008年の金融危機ではないかといいます。

「金融資本主義が暴走し、リーマンショックが訪れた。住宅を失ったアメリカの貧しい人たちが困ってしまった。しかしウオール街の金融機関と金融マンは金融資産をたっぷり蓄えて、普通の人々は〈ウオール街を占領せよ〉という運動を起こした。こうした状況の中、人々が直接お金の融通をしあう『ソーシャルファイナンス』の仕組みがクラウドファンディングという形でインターネット上でできて広がって行ったんですね」

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1960年代の高度経済成長期、お金はモノを製造・流通・消費する経済の手段でした。この経済の高度成長のベースとなるエネルギー源が石油でしたが、70年代のオイルショックを境に、値段が高くなり企業利益は低下し、利益率は急激に下がりはじめます。

1990年代、バブル崩壊後、金融機関は資金回収を強め、貸し倒れリスクを回避するために、企業に対する「貸し渋り」が増えました。銀行が安定した国債ばかりを買い、よほどの担保がなければお金を貸さないという考えになったのです。

人件費を固定費から変動費にする、非正規雇用の考えが出てきたのもこの頃です。

中国へのアウトソーシングも盛んになりました。もっとも生産効率が高い企業が「勝ち組」と呼ばれる時代になり、金融資本を増やす事自体が目的となっていったのです。こうした中で一般の人々の収入は減り、貯蓄のない若者が増えていきました。

社会的な背景だけではなく、通信技術の進歩も背景にあるといいます。

「2000年のITバブル崩壊まではマイクロソフトのメインフレーム型がITの中心でしたが、その後アップルやグーグルが急速に成長、分散ネットワーク型のITが主流になっていきました。インターネットとITは個人どうしが水平につながる世界になったわけです」

こうしてリーマンショックを経たあと、ソーシャルファイナンスとしてのクラウドファンディングが日本に入ってきたといいます。例えば世界的なマイクロファイナンスのNPO機関KIVAの日本版「KIVA JAPAN」が動き出したのもこの頃です。

頼母子講とは「カネ・モノ・ヒト」の融通

それでは、元祖クラウドファンディングの頼母子講にはどんな歴史があるのでしょう。

頼母子講の始まりは仏教公伝までさかのぼります。南都六教・華厳経に書かれた融通無碍は「おのれの悟りを開くだけではなく、他者を救おう」という他者指向のアイデアでもありました。そこから「相互扶助」(たすけあい)という考え方が生まれたのです。

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お寺を中心に食べものや労働力を融通し、困った人に救いの手をさしのべる。その考えが中世時代、貨幣経済が成立してから「頼母子講」に発展しました。

江戸時代になると、お金を積み立てる手段としての講はさらに急速に発展します。お伊勢参りをするための「伊勢講」、富士山に行くための「富士講」、高級な輪島塗りを買うための「碗講」なんて講もあったそうです。

明治時代間際になると、長州藩が貧しい人たちの相互扶助「お救い頼母子講」を発展させて「子どもが生まれたら米をあげる」という福祉制度を敷きました。結果として財政状況が好転し、江戸幕府を倒すほどの力を得たともいわれています。

「相互扶助というのは3つの形態があります。お金の融通、モノの融通、ヒトの融通です。結(ゆい)という言葉がありますよね、沖縄の『ゆいまーる』のゆい。あれは順番に相互扶助を回していく仕組みです。例えば白川郷のいくつもの茅葺き屋根の葺き替えや補修のために、労働力をお互いに提供する。そういうアジア的な伝統があって、それがお金で表現されているのが講とか模合。それがインターネットの技術とネットワークが加わるとソーシャルファイナンスとしてのクラウドファンディングになるんです」

今も生きている「頼母子講」

驚くべきことに、頼母子講は融資制度だけではなく、3つの機能をもっていたと言います。貯蓄、保険、投資です。

「お金を積み立てて旅行に行くとか、冠婚葬祭など物入りの時に借りる『貯蓄・融資』。家畜の馬や牛が死んだときに家畜を買う『保険』。くじを引いて当たったら新商売の資本金にする『投資』――様々な機能を、講はそれこそ融通無碍に果たしてきたんです」

なぜ3つの機能がバラバラになり、銀行(貯蓄・融資)、保険会社、証券会社に分かれてしまったのか。きっかけは明治時代にあるといいます。

明治30年代、時の政治家・品川弥二郎が、ドイツから信用組合・信用金庫の仕組みを取り入れたんです。弥二郎は講の仕組みに近代的な「債権・債務」の考えを取り入れ、講をいわゆる「金融機関」に変えようとしました。

「講は道徳的なもので、利息をとることはなかったんですね。お礼で上限2割くらいまではあげますが、近代以前だと贈与、ありがとうで返すという話でした。お葬式でお香典をあげるけど半返ししようとかいうのとおなじ相互扶助だったんです」

債権・債務管理という近代的な民法・商法の中で、「金利」という概念も生まれました。債務を果たさなければ罰せられるという形で、道徳的な関係を法律的な関係に変えようとしたのです。

しかし、当時の大蔵省が調べたところ、信組・信金が出来てからもまだ、地方には33万以上の講が存在していたと言います。地域で人々が脈々とお金を回し続けてきた講が本格的に解体されていくのは、1900年のこと。きっかけは日清・日露戦争でした。

「1900年、当時の大蔵大臣・松方正義が「貯蓄奨励論」という演説をしたんです。国家は『個人が貯蓄をするのは国のためでもある』といって、全国津々浦々に郵便局を作り、小学校や神社の境内でもお金を集めるシステムを作ったんですね」

結果、地方の人々のお金は国の中央に集められ、戦費に使われることになりました。

当時、いわゆる所得税制度はありましたが、徴収対象は富裕層のみ。市民がお金を積み立てていた「頼母子講」は、いわば地方でお金を廻す仕組みだったのですが、これが郵便貯金などで国にお金が集中するようになっていくわけです。

その後、多くの「頼母子講」や「無尽」は信用金庫や地方銀行となって、現在に至ります。では、頼母子講は絶滅してしまったのでしょうか?

「無尽や講が絶滅したなんて、とんでもない話です」

いまでも地方では頼母子講の仕組みが生きているといいます。たとえば山梨・甲府には、「講」が使える居酒屋があると言いますし、沖縄のタクシー運転手に「模合やってますか?」と聞くと「もちろん」と返ってきたそうです。沖縄の文具店には「模合帳」というノートが販売されており、岩手県の北上などでも「無尽」が日常的に行われているそうです。

「社会性」と「収益性」の両立が鍵

21世紀、ふたたび必要とされている「たすけあい」のシステム。

頼母子講とクラウドファンディングの共通点は、誰かのためになる社会性と、自分のためになる収益性の両立です。いまアメリカの企業にとって、社会性なしに収益性が得られないという傾向もでてきているといいます。

分かりやすいのは環境への配慮です。

「S&P500(米国株式指標)の中でも、CO2排出量が少ない350社を並べてみると、排出量が多い企業よりも株価成長率のパフォーマンスがいいんです。オイルピークを迎えたあと、気候変動をリスクヘッジしている企業のほうが伸びているという結果がインデックスにあらわれているんですね」

日本ではソーシャルファイナンスの仕組みを使って、地域の市民電力会社も生まれています。神奈川・小田原のほうとくエネルギー株式会社は会社の資本金や金融機関融資の他に「ほうとくソーラー市民ファンド」という1口10万円の市民ファンド一億円に支えられて再生可能エネルギー事業が展開されています。

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「出資者は半分以上が神奈川県民で、26~27%は小田原の人。政府や、東京に本社がある大企業ではなく、直接(地域)コミュニティにお金がまわる仕組みになっています」

ただ自分が儲かるだけでなく、思想への共感によってつながる、新しくも懐かしい金融の仕組み。旧来の金融機関がひたすら経済成長に寄与してきたのとはちがう「相互扶助」の金融思想がソーシャルファイナンスとしてのクラウドファンディングの源泉なのです。

「日本は『社会性があってもいいけど収益性がないとね』というふうになっていたり、ひたすら収益性を追求する形でクラウドファンディングを利用することもあるようです。そうではなく時代の方向を見据え、社会性の追求を第一としてクラウドファンディングを活用する方向に前進してほしいですね」

K.M.

書籍・雑誌・WEBメディアの編集者・記者。ビジネス・カルチャー担当です。主な仕事先はKADOKAWA、講談社など。インタビュー、ゴーストライターなど、お問い合わせください。

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