6月23日東京ミッドタウンカンファレンスルームで開かれた「激論!どうなる日本の投資型クラウドファンディング」セミナー。
ここで、日本ではまだこれからとなる株式型クラウドファンディングについて、識者による意見が飛び交った。
はじめに、日本クラウド証券の大前和徳代表から「投資型クラウドファンディングの最前線」というタイトルで、世界と日本のクラウドファンディングの現状、そしてこの5月23日に法制化したばかりの株式型クラウドファンディングについて解説がなされた。
日本でも開始間近!?株式型クラウドファンディング
日本クラウド証券では、新興国支援や中小企業支援などをテーマに、融資型のクラウドファンディングを行っており、5月頭には3億円を突破、その後も急速に資金を集め、現在の調達金額は6億円を超えている。
資産運用と社会貢献を両立できることが大きな特徴として挙げられる融資型が徐々に定着しつつある中、新プラットフォームとして「Crowd Equity」もスタート。グリーンシート銘柄のポータルサイトとして非上場企業の株式を売買できるサービスとして注目を集めている。また日本クラウド証券は、今後「Crowd Equity」において株式型クラウドファンディングを扱う可能性を示唆している。
●日本クラウド証券の運営するサービス「クラウドエクイティ」
ただ、大前氏のプレゼンによると、「なぜ株式投資をするのか?」という問いに対しては「配当がもらえるから」「長期・短期の資産運用」「株主優待が受けられる」という理由が圧倒的だ(日本証券業協会「平成24年証券投資に対する全国調査」より)。
要するに、日本人のほとんどが何らかの「儲け」を期待して株式投資をしている現状の中、果たして株式型クラウドファンディングはどう受け入れられるのだろうか?
そこで、その後のトークセッションでは、さまざまな立場での専門家が登壇し、この問題について語り合った。
参加メンバーは、日米のベンチャーファイナンスに詳しい弁護士・増島雅和氏、株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング代表・中山亮太郎氏、ガジェット・テクノロジー・ゲーム特化型クラウドファンディングGadgetBankを運営する株式会社ボーンレックス代表の室岡拓也氏、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 マーケット調査室コンサルタントの渡邉睦氏、そして大前日本クラウド証券代表だ。
新しい投資の選択で業界はどう変わる?
まずは、「今回改正された金融商品取引法をどう評価するか?」。
「大胆不敵な大改革」と大きく評価する大前氏だが、中山氏からは「1億円未満の資金調達」「1人当たり投資額は50万円まで」という制限はできれば外してほしかった、という意見が出た。これは、人によってお金の価値が違うことから、投資家にとっては無制限で投資したい人がいるはずだという思いからだ。
50万円の制限は投資家保護の観点からだが、同じ理由で設定されている投資の勧誘行為をネット限定にしていることも、大前氏によると特例で外してほしい点だ。
これではじっくり話を聞いて資金を出したくても、リアルな場で話を聞けず、資金が集まらない可能性がある。
次に、「株式型クラウドファンディング解禁で、何が変わるのか?」。
これには室岡ボーンレックス代表より、「クラウドファンディングがやっと認知され始めた」という意外な効果が挙げられた。これまでGoogleのキーワード検索で「クラウド」と入れても出てこなかった「クラウドファンディング」が、候補として出てくるようになったことを評価したいという。
一方、サイバーエージェント・クラウドファンディング代表の中山氏からは「お金のリターンありきとは違う経験ができるのでは?」、大前氏からは「株式投資をやったことのない人が、応援したいから1株から買うということもありえる。利益を追うとやけどすることも多いが、そういう投資詐欺まがいとは違う」といった「儲け」と違う目的の新しい投資に期待の声が上がった。
「儲かるという点から目をそらしてはいけない」
ただし、その後メリットとデメリットを出し合う場面では、厳しい意見も。
増島弁護士からは、投資家にとってはディフォルトや元本割れの危険性など、あらゆる株式と比べてリスクが最大となることが挙げられ、資金調達側からは投資家が数人増えただけでどれだけメリットがあるのか、儲かるのかどうなのか、まだ本格参入するかどうか迷っている段階、と中山氏から正直な感想が寄せられた。
また、今後の普及に当たって何が必要かも議論が分かれたところだ。
渡邉氏は「わかりやすい評価方法を構築すること」を挙げたが、同時にIPOを目指す企業側にとっては投資家が多いと上場時の足かせになるのでは? という懸念も提出。
これに対して大前、増島氏は「運用の仕方を工夫することで解決可能であり、根本的な問題とは言えないでは」との見解を示したが、問題は投資家にとってどんな魅力が打ち出せるかだ。
「儲かる、というところから目をそらしてはいけない」と中山氏が提言。
普及に当たってはやはり、「儲かるかもしれないという強烈なインパクトが必要。そのユーザー体験を与えることが、まずは起爆剤になる」という意見だ。
確かに、前半の大前氏のプレゼンで紹介された、日本での投資の大きな理由は「儲かる」という点に尽きる。トークセッション前半で株式型クラウドファンディングが利益とは違う価値観での投資経験を生むのでは、という意見は果たして日本で実現するのだろうか。
地方への「ふるさと納税」的なマネーの可能性も
これに対しては、その後の質疑応答での答えも含めて、中山氏が一つの可能性として「ふるさと納税」的なマネーを取り込めるのでは、という意見を出している。現実論としてネット系の投資案件ではすでに市場としてマネーの供給は十分あり、むしろそれ以外で調達しなければならない企業は将来性が乏しいとも言える。
つまり、資金を集めたいというより応援してくれる「仲間」を集めたいという、「応援マネー」的な側面があるのでは、という視点だ。
大前氏も、地方には自治体や銀行、税理士などの士業と連携したコラボが考えられると期待を寄せる。また、NISAやふるさと納税的な税制優遇もほしいところだという。
最終的にトークセッションでは、「まだこれから」と法制化されたばかりの株式型クラウドファンディングに慎重な意見が主流だったが、果たしてこの新しい投資商品は「儲かる」がテーマなのか、それとも別な魅力をアピールできるのか……?
「金融の常識と別なところから、この業界に参入してくるところがあるはず」と大前氏が予言するように、これまでの投資の常識を変えるのは間違いない。
投資家たちからの評価がどう出るのか、それがこれから見られるはずだ。