米国における不動産による保全について

日本における不動産担保

日本では、不動産担保として一般的に利用されているのは抵当権です。抵当権とは、次の様な制度になっています。

① 制度の概要

抵当権とは、債権者と債務者の間で生じた債権について、債務者が債務の弁済が不可能となったときに、抵当権の対象となっている不動産から優先的に弁済を受けられるように設定する法定担保物権の一種です。

日本において抵当権の設定は、債権者と債務者もしくは担保提供者の間の合意により設定することができ、抵当権の設定登記は第三者に対して抵当権を設定していることを主張するために備えるものであり、義務付けられているものではありません。

② 回収の手続き

債務者が債務の弁済が不可能となった場合、抵当権を設定している不動産を売却し、当該不動産の売却代金から優先的に債務の弁済を受けることができます。

アメリカの不動産担保制度

米国でも、受託者に不動産を自由に売却させて債権者はその代金から債権回収を図るDeed of Trustや、裁判所による差押えと売却を経るMortgageといった不動産担保制度があります。日本に抵当権制度が用意されているのと同様、不動産による債権回収制度が整備されています。なお、州によってDeed of TrustとMortgageの両方の手段が使える州、どちらか一方の手段しか使えない州があります。

(1) Deed of trust(信託証書)

① 制度の概要

Deed of trustとは、Trustor(委託者)たる債務者、Beneficiary(受益者)たる債権者及びTrustee(受託者)の三者間で締結し、万が一債務者が債務を弁済することができなくなった場合には、債権者は対象不動産を自由に処分することができるという内容の信託証書のことをいいます。この信託証書に伴う借入の仕組みを信託証書制度(Trust Deed System)と呼びます。Deed of Trustが設定されると、公的な情報として登録されます。

Deed of Trustを設定すると、担保不動産のTitle(所有権)が、受託者に移転することになります。Deed of Trustを利用する際には、Title Insuranceを発行することが一般的です。

② 回収手続き

債務者が債務の弁済が不可能となった場合、債権者は物件の売却の権利を有する受託者及び管轄の裁判所に対して法的手順を踏んだうえで請求します。

これを受けて受託者は、物件の売却をし、当該売却の代金から債権者は債務者に対する貸付債権の回収を図ることができます。売却の時期、価格等は、信託証書に記載してある条件に従うこととされています。また対象不動産に対して、担保権を実行する際には、裁判所による差押えの許可は不要となっており、債権回収の費用や時間を節約することができます。

※Title Insuranceとは、Title Insurance Company(タイトル保険会社)が国や州のガイドラインに基づいて対象不動産について発行する保険をいいます。

タイトル保険会社は、担保不動産に対する所有権、抵当権、先取特権、未払税金などの存在について調査して報告書を作成するので、その過程でDeed of Trustの対象となる債権に優先する負担の存在が明らかになるとともに、報告書に記載のない所有権や抵当権等、債権者に不利益となる事項が将来発生した場合、その損害はTitle Insuranceにより補償されます。

(2) Mortgage

① 制度の概要

債権者と債務者の二者間で締結する、債務者の不動産に対し、債権者の権利を設定するための合意を言います。Mortgageの設定により、不動産に担保が設定されますが、Title(所有権)は移転しません。なお、債権者、債務者の二者間の契約で設定が可能な点及び、所有権も占有権も移転しない点で日本における抵当権の制度と類似しています。担保実行手続きが終了するまでは、Title(所有権)も占有も債務者のもとにとどまります。Mortgageの設定は、公的な情報として登録され、債務がすべて弁済された場合に、当該登録は無効となります。アメリカでは、不動産に対しMortgageを設定した場合には、その登録が義務付けられているため、Mortgageの設定の事実は明らかになり、担保価値についても、取引履歴が開示されることにより、把握できるようになっています。

債務者が債務の弁済ができなくなった場合に、担保不動産の差押えや売却手続きについては裁判所を通したうえで、担保不動産の売却を行い、その売却代金から債権を回収します。よって、裁判所を通すことにより、Deed of Trustと比較すると、時間と費用が掛かります。

Deed of TrustとMortgageの比較

Deed of Trust(信託証書) Mortgage
制度の特徴

債権者、債務者と受託者の三者間の契約により発行される信託証書をいい、担保不動産のTitle(所有権)が受託者に移転する。

一般的にTitle Insuranceを伴うので、Title Insurance Companyによる調査の中で明らかになった担保不動産に対する他の抵当権等などは弁済等が行われ抹消される。

債権者と債務者の二者間で、債権者の権利を保全するためにTitle(所有権)や占有を移転することなく不動産を担保に設定する。

抵当権に類似するが、抵当権と異なり登録が義務付けられるため、設定の事実が明らかになる。

回収手続き 債権者が法律に則って請求することで受託者に不動産を自由に売却させ、その代金から債権を回収する。 裁判所を通じて対象不動産の差押えや売却を行い、その代金から債権を回収する。
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